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2025.06.18

個人事業主として不動産業で開業するメリットとデメリットは?

個人事業主として不動産業で開業するメリットとデメリットは?

著者情報

我妻 貴之(加盟開発課 部長) 詳細プロフィール
不動産業界で18年以上の経験を持ち、賃貸仲介から売買、競売入札、民泊運用まで幅広く対応。不動産経営の最適化を目指し、開業や事業拡大をサポート。

不動産業での開業を考えたときに、「ひとまず個人事業主にしておこう」と考える方も少なくありません。

たしかに個人事業主には、開業と帳簿作業の簡単さや税制面のメリットがあります。しかしその一方で、社会的信用度の低さや経費面でのデメリットもあるため、開業時に慎重に検討しなくてはなりません。

我妻 貴之

そこで本記事では、個人事業主として不動産業で開業するメリットとデメリット、法人のほうが適しているケースを解説します。個人事業主と法人のどちらで開業するかお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

この記事の要約

  • 個人事業主は手続きが簡単で税負担が軽い
  • デメリットは信用度と経費面
  • 所得900万円超で法人が有利

不動産業で開業するときにはまず「個人」か「法人」かを決める

経営形態は大きく「個人事業主」と「法人」の2種類に分けられます。
それぞれ開業手順や納税方法が異なるため、まずはどちらで開業するのかを決めておかなくてはなりません。

  • 個人事業主:事業を営む個人
  • 法人:法律によって権利や義務が認められた組織や団体

個人事業主とは文字通り、個人で事業を営む人のことです。従業員を雇っていたとしても、法人を設立していなければ個人事業主に分類されます。

一方で法人は、法律によって権利義務が認められている組織や団体のことです。財産を保有したり契約を結んだりできるのが特徴で、株式会社や合同会社、NPO法人などのさまざまな種類があります。

我妻 貴之

なお、フランチャイズ加盟を検討している方は、契約条件として法人が求められる場合もあるため、事前に確認しましょう。

個人事業主として不動産業で開業するメリット

冒頭でもお伝えしたように、個人事業主のメリットには開業手順や帳簿作業の簡単さ、利益が少ない段階での税負担の軽さなどが挙げられます。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

開業届を提出するだけで開業できる

個人事業主として開業する場合は、税務署に『開業届』を提出するだけで事業を始められます。法人は資本金や規則決めなどやるべき手続きが多くありますが、開業届に記入するのは以下のように、すぐに決められる情報のみです。

【記載項目】

  • 管轄の税務署名、提出日
  • 事業主情報
  • 職業および屋号
  • 届出の区分
  • 所得の種類
  • 開業日
  • 開業に伴う届出書(青色申告承認申請書など)の提出の有無
  • 事業の概要

開業届は国税庁のウェブサイトでテンプレートをダウンロードしたり、会計ソフトを使ったりすれば、簡単に作成できます。書類作成から提出までを、すぐに済ませられる手軽さがメリットです。

引用元:国税庁 個人事業の開業・廃業等届出書
我妻 貴之

なお、青色申告での確定申告を予定している方は、開業届と同時に「青色申告承認申請書」も提出しておきましょう。

参考:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続

開業資金を抑えられる

法人の設立には登記や印鑑登録などの、さまざまな手続きが必要です。
費用の目安は合同会社なら10万円〜、株式会社なら22万円〜で、手続きを司法書士に依頼する場合は報酬として別途10万円前後かかります。

一方、個人事業主の場合は、開業自体には費用がかかりません。不動産業の開業資金は400〜1,000万円目安ですが、個人事業主として開業すれば、法人設立分の費用負担を抑えることができます。

開業資金の内訳や資金調達方法を説明した記事がありますので、ぜひこちらも参考にしてください。

利益が少ない間は税負担も少ない

個人事業主と法人とでは、納める税金の種類が異なります。不動産業で開業したときに個人事業主が納めるのは、次のような税金です。

  • 所得税
  • 住民税
  • 個人事業税
  • 消費税(課税事業者の場合)

所得税は会社員と同じように、累進課税制度によって事業所得に応じて5%〜45%までの7段階に分けられているため、所得の低いうちは税負担を抑えることができます。課税所得金額が45万円以下になる場合は非課税となり、確定申告も不要です。

一方、法人税は売上にかかわらず、4種類の法人税と消費税を必ず納めなければなりません。法人は10年にわたって赤字の繰り越しができるものの、納税によって経営や生活が厳しくなる恐れがあります。

とくに不動産業は顧客との信頼関係や集客がとても重要なため、売上が安定するまでに時間がかかる傾向があります。開業から数年間は売上が低いままの可能性も0ではないので、事業所得に応じて税率が決まる点は、個人事業主として開業する大きなメリットと言えそうです。

帳簿付けの負担が軽い

個人事業主は、白色申告または青色申告での確定申告をしますが、どちらで申告するにしても帳簿の作成が義務化されています。しかし個人事業主が行う記帳はそれほど複雑ではないので、会計ソフトやエクセルなどを使えば自分で帳簿付けをすることも可能です。

我妻 貴之

作業負担が軽く、税理士への報酬が不要な点がメリットです。

個人事業主として不動産業で開業するデメリット

開業や作業負担が軽く、事業所得が低いうちは税負担も抑えられる個人事業主ですが、デメリットもいくつかあります。

法人よりも信用度が低い

個人事業主は会社ではなく“個人”として見られることが多く、法人よりも信用度は低くなってしまいます。とくに取引金額が高額になることが多い不動産業では、個人事業主という点が、顧客や取引先との信頼関係の構築に影響してしまうかもしれません。

融資を受けるときも、個人は法人と比べて審査が厳しくなる傾向

開業資金や事業拡大資金などの融資を受けるときも、個人は法人と比べて審査が厳しくなる傾向があります。信用の得づらさは、個人事業主でいる大きなデメリットと言えるでしょう。

利益が一定額を超えると税負担が重くなる

前述のように、所得税は事業所得が増えると税負担も大きくなる点がデメリットです。とくに事業所得が900万円を超えると税率が23%から33%へ一気に跳ね上がり、法人税率の23.2%を超えてしまいます。

【所得税率】

事業所得税率控除額
195万円未満5%0円
195万円以上330万円未満10%97,500円
330万円以上695万円未満20%427,500円
695万円以上900万円未満23%636,000円
900万円以上1,800万円未満33%1,536,000円
1,800万円以上4,000万円未満40%2,796,000円
4,000万円以上45%4,796,000円
個人事業主の所得税率

【法人税率(普通法人の場合)】

事業所得税率
年800万円以下の部分15%
年800万円超の部分23.2%
法人税率(普通法人の場合)

不動産業は取引金額が大きく、売買仲介業では1件あたりの売上(仲介手数料)が100万円を超えることも少なくありません。そのため月々の契約件数が安定してくると、あっという間に事業所得900万円を超えてしまうでしょう。

不動産業の年収については以下記事で取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。

経費にできるものが法人よりも少ない

個人事業主であっても、地代家賃や光熱費、車両費、通信費、フランチャイズ加盟料(ロイヤリティ)などの、事業に必要な費用は全て経費として計上することができます。

しかし次のような費用は、経費にはできません。

  • 事業主自身の給与
  • 役員報酬
  • 生命保険料
  • 退職金の準備金

そのため個人事業主であるうちは、上記の費用は全て自己負担となります。

しかし法人ならばこれらを全て経費にできるので、節税対策に有効です。たとえば親族を役員に就任させて役員報酬を払うなど、節税対策の幅が広がります。

個人事業主よりも法人を検討したほうが良いケース

個人事業主としての開業には、メリットとデメリットのどちらもあるとわかりました。では具体的に、どのようなときに法人の設立を検討したほうが良いのでしょうか。

見込み利益が900万円を超えている

法人設立を検討するひとつの指標が、事業所得(利益)の額です。前述のように個人事業主は累進課税によって所得に応じて税負担も大きくなっていくので、所得税率が法人税率を超える900万円を目安にすると良いでしょう。

我妻 貴之

ちなみに開業初年度から所得が600〜900万円になる見込みなら、法人としての開業をおすすめします。法人を設立しておけば所得900万円の壁を気にせず、売上を増やすことに専念できるからです。

「見込売上がどうなるかわからない」「集客の状態を見てから法人成りを検討したい」という方は、事業所得が増えてきたタイミングで法人成りする方法もあります。

しかしその場合は、宅地建物取引業免許を新たに申請しなくてはなりません。法人の設立から6か月以内であれば、特例措置によって取得済みの宅建業免許を維持したままで法人の新規申請もできますが、免許番号が変わるため、業者票の修正が必要になります。

宅建業免許の新規申請が必要

宅建業を営む場合は、法人設立の手続きだけではなく宅建業免許の新規申請が必要になる点も踏まえて、開業方法を検討したほうが良いでしょう。

すぐに事業を拡大する予定がある

開業後すぐに、対応できる業務を増やして事業拡大する予定があるのなら、初めから法人として開業することをおすすめします。法人のほうが事業拡大にあたって資金の融資を受けやすく、新規事業によって事業所得が増えたときにも税負担の急増が避けられます。

前述のように、不動産業、とくに売買仲介業は1件あたりの取引金額が高額になりやすい業種です。「ひとまず」で個人事業主としての開業を考える方も多いのですが、将来的な事業の見通しなどからも、個人と法人のどちらが適しているのかを考えてみてください。

不動産業は個人事業主としても開業できるが、メリットとデメリットから慎重に検討を

個人事業主として不動産業を開業すると、今回挙げたように開業手順や帳簿付け、税金面でさまざまなメリットがあります。しかし社会的な信頼度が低く経費の幅が狭いなどのデメリットもあり、事業所得が900万円を超えると、法人税率よりも所得税率のほうが高くなる点にも注意しなくてはなりません。

不動産業で起業した人の平均年収は800〜1,000万円という統計もありますので、平均値だけで考えると、法人設立を検討すべき収入帯に入っています。

我妻 貴之

これらの数値や自分の理想の働き方や将来的なビジョンなどから、個人と法人のどちらで開業すべきなのかをよく考えてみてください。

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