2024.12.10
不動産業の開業における事務所の審査要件は?候補地とあわせてチェック
著者情報
我妻 貴之(加盟開発課 課長) 詳細プロフィール
不動産業界で18年以上の経験を持ち、賃貸仲介から売買、競売入札、民泊運用まで幅広く対応。不動産経営の最適化を目指し、開業や事業拡大をサポート。
宅建業を営む不動産会社の開業は、宅建業法で事務所の設立が必須条件となっており、規定の要件も満たしておく必要があります。
そのため要件を知らずに申請をすると、宅地建物取引業免許(宅建業免許)の審査に落ちてしまう可能性があります。
そこで本記事では、宅建業における事務所の審査要件や候補地について解説します。事務所選びはとても重要なので、最後までしっかりと確認してください。
この記事の要約
- 宅建業の開業には、事務所の設置が必須であり、要件を満たす必要がある
- 審査には専任の宅建士設置、標識や報酬額の掲示、帳簿と従業者名簿の備付け必要
- 候補地としては、店舗テナントが最適で、自宅の一部やシェアオフィスには慎重な検討が必要
不動産業で宅建業を開業するには事務所の設置が必須
不動産業にはいくつか業態がありますが、その中でも事務所の設置が必要となるのは、売買仲介や賃貸仲介のような宅建業を営むときです。宅地建物取引業免許(宅建業免許)の申請を行うにあたって、事務所の設置が義務付けられています。
宅建業において「事務所」と定義されるのは、次の場所です。
- 本店
- 宅建業を営む支店
- 継続的に業務を行えて、宅地建物取引業にかかわる支店長や支配人を置いた場所
3つの定義がありますが、1人開業では自分がいる事務所が本店(主たる事務所)となるため、この部分に関してはあまり気にする必要はありません。
ただしこの先説明する事務所の要件は、全て満たす必要があります。
不動産業の開業で事務所審査に求められる5つの要件
宅地建物取引業免許を申請する際には、前章で説明した定義のほか、次の5つの要件を全て満たす事務所を用意しなくてはなりません。
- 専任の宅地建物取引士(宅建士)の設置
- 標識の掲示
- 報酬額の掲示
- 帳簿の備付け
- 従業者名簿の備付け
具体的にどのようなことを意識すればいいのか、わかりやすく説明します。
専任の宅地建物取引士(宅建士)の設置
宅建業を営む事務所として申請するためには、専任の宅地建物取引士の設置が必須です。
従業員5人に対して1人の割合での設置が義務付けられているため、事務所で働く人数が1〜5人ならば1人、6人〜10人ならば、事務所内で最低でも2人は宅建士資格を有していなければなりません。つまり1人開業の場合は、自らが専任の宅地建物取引士として宅建士資格を取得しておく必要があります。
標識の掲示
宅建業を営むときには、顧客から見える場所に「標識(業者票)」を提示しなくてはなりません。標識と聞くと看板を思い浮かべるかもしれませんが、宅建業における標識は次の項目が記載されているものになります。
- 免許証番号
- 免許の有効期限
- 会社の商号または名称
- 代表者名
- 専任の宅地建物取引士の氏名
- 事務所の所在地と電話番号
参考:国土交通省「宅地建物取引業免許申請等様式」
標識は提示場所によって様式が異なり、全部で10種類ほどありますが、最もよく使われるのは「様式第九号(第十九条関係)」です。
引用:国土交通省:様式集
標識には記載内容や提示場所のほか、大きさや文字色などにも規定があるので、詳細は国土交通省の「様式集」で確認してみてください。
報酬額の掲示
売買仲介や賃貸仲介を行ったときの仲介手数料を「報酬額」といいます。宅建業を営む事務所には、最新の報酬額表を顧客から見える場所に提示する決まりがあります。
報酬額表の大きさはA3横サイズが基本で、不動産団体の会員ページでダウンロードすることもできますが、標識とあわせて業者に作成してもらうことも可能です。
帳簿の備付け
宅建業を営むときには、事務所ごとに業務の帳簿付けが義務付けられています。帳簿には月々の売上を簡単に記載したものもありますが、宅建業で求められるのは、取引ごとの売上が確認できるものです。
帳簿の保存期間は各事業年度の末日に閉鎖してから5年間(売主となった新築は10年間)で、その間事務所に備え付けておかなくてはなりません。
従業者名簿の備付け
従業者名簿は文字通り、事務所で働く従業員の情報を記した書類です。宅建士の設置人数や業務内容を確認するために、備付けが法的に義務付けられています。
帳簿に記載するのは、従業員に関する次の情報です。
- 氏名
- 従業者証明書の番号
- 生年月日
- 主たる職務内容
- 取引士であるか否かの別
- 事務所の従業者となった年月日
- 事務所の従業者でなくなった年月日
名簿は作成から10年間は保存する義務があり、従業員が退職したからといって破棄することはできません。取引関係者から請求があった場合は閲覧義務があるため、必ず期間内は保存しておきましょう。
不動産業で開業するときの事務所の候補地
事務所の要件を確認してみて、自宅やシェアオフィスでも事務所にできそうだと感じた方もいらっしゃると思います。しかし、宅建業を営む事務所として機能させるためには、設備類にも気を配らなくてはなりません。
たとえば事務所内の作業用デスクと接客用デスクの使い分けや、応接間の設置、事務所専用の固定電話番号の取得なども、宅地建物取引業免許の取得で義務付けられています。
それらを踏まえたうえで、事務所の候補地を見ていきましょう。
店舗テナント
「不動産会社」と聞いたときにまず思い浮かべるのも、テナントビルで営業している不動産会社ではないでしょうか。店舗テナントは設備類の設置がしやすく顧客からの信頼も得やすいので、不動産会社の事務所に最も適した場所です。
さらにテナントビルは警備体制も整っているため、売上の盗難や顧客情報の流出を防げるなど、セキュリティ面でのメリットもあります。
大通りや駅近くなどの人目につきやすいテナントビルなら、潜在顧客の獲得も見込めるでしょう。
しかし、テナントの契約費用や賃料は高額になることが多いので、払い続けられる賃料なのかを予想売上や融資の返済額などから慎重に判断しなくてはなりません。
自宅の一部分
1人開業では、自宅の一部分を事務所にする方法もあります。店舗テナントとは違って契約費用や賃料が不要で、通勤時間もかからない点がメリットです。ただし自宅を事務所にするためには、専用出入口を設置し、さらに居住スペースとの分離もしなくてはならないため、改装工事が必須です。
工事内容によってはテナントよりも割高になり、廃業時に事務所部分の使い道がなくなる恐れもあるため、自宅を事務所化するときには慎重な検討が必要です。
またフランチャイズ加盟店になるときには、自宅エリア周辺に他の加盟店があると、出店が制限される可能性が高いです。自宅の事務所化は、それらの注意点を踏まえたうえで慎重に検討しましょう。
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シェア(レンタル)オフィス
他業種や業態の開業者の中には、シェアオフィスの住所を事業所登録している人も多くいます。しかしシェアオフィスを事務所にするためには、自宅と同様に、顧客の出入口や応接スペースを共用部分から分離しなくてはなりません。
勝手に改装工事をすることもできないので、シェアオフィスの事務所化は難しいのが現実です。宅地建物取引業免許の審査に落ちてしまう恐れもあるので、事務所の候補からは外したほうが良いでしょう。
審査要件を全て満たす場所に、事務所の設置を!
宅地建物取引業免許の取得申請をするためには、事務所の設置が必須です。
審査に時間がかかったり落ちたりするとそれだけ開業時期が延びてしまうので、内容をしっかり頭に入れ、要件を全て満たす事務所を探してください。
費用面などを考えると「要件さえ満たせばいい」と考えるかもしれませんが、事務所を構える場所で、顧客からの印象も変わります。顧客からの印象は売上にもつながるので、慎重に検討しましょう。