会社員が独立する準備とタイミング。退職から逆算する段取りと、在職中にできること

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我妻 貴之(加盟開発課 部長) 詳細プロフィール
不動産業界で18年以上の経験を持ち、賃貸仲介から売買、競売入札、民泊運用まで幅広く対応。不動産経営の最適化を目指し、開業や事業拡大をサポート。
会社員が独立を考えたとき、何から手をつければよいか迷うのは、準備に「いつまでに何をする」という決まった順番がないからです。退職したあとの手続きには期限がありますが、開業の準備の段取りは自分で組むことになります。
この記事では、退職の日から逆算した準備の段取りと、在職中にできることとできないことの線引き、退職後の社会保険と失業給付の扱い、独立するタイミングを決める基準を、公的な資料と法令で説明します。不動産フランチャイズで独立する場合に、在職中に決めておくことも、あわせて紹介します。
独立の準備は、退職の日から逆算して段取りを決める
独立の準備で大切なのは、退職の日を起点に、その前にやることと後にやることを分けることです。
- 退職の前にやること: 家族との話し合い、業種と開業の形の決定、資金の準備、必要な資格の取得、相談と事業計画
- 退職の後にやること: 健康保険と年金の切り替え(14日以内などの期限がある)、税務署への開業の届出(個人で始める場合)、許認可の申請など。住民税の納め方は、退職のときに確かめる
まず、独立する人の多くが会社員だったことを、公的な調査で確かめます。
公庫の融資を受けて開業した人の7割は、会社員から独立している

日本政策金融公庫総合研究所の新規開業実態調査では、開業する直前の職業は、2025年度で「正社員・正職員(管理職)」が41.1%、「正社員・正職員(管理職以外)」が31.0%で、合わせて72.1%でした(2025年度新規開業実態調査)。2015〜2025年度の11年間、この割合は68.5〜73.6%で、毎年7割前後です(当社計算)。
勤めながら事業を始める人もいます。日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度起業と起業意識に関する調査」では、事業に週35時間以上をあてている起業家のうち、「勤務を辞めてから事業を始めた」人が63.9%、勤務しながら事業を始めた人が21.7%でした。この調査は日本政策金融公庫(以下、公庫)の融資を受けていない人も含むインターネットの調査で、上の新規開業実態調査とは対象が違います。割合は、回答者の性別・年齢の偏りを、公庫が事前調査の構成に合わせて補正した集計です。
勤めながら始められるかどうかは、業種で変わります。不動産の仲介は、後で説明するとおり、免許を受けるときに事務所に常勤する専任の宅地建物取引士(宅建士)が要るので、自分が専任の宅建士になって開業するなら、準備は在職中に進め、開業は退職してから、という順番になります。
退職から逆算した準備の段取り

準備にかける期間を聞いた公的な調査は、私たちが調べた範囲では見当たりませんでした。ここでは、手続きの期限と、開業の準備にかかる期間から組み立てた当社の目安を示します。
| 時期(退職の前は当社の目安、後は法令の期限) | やること |
|---|---|
| 退職の1年ほど前 | 家族との話し合い。勤務先の就業規則を確かめる。業種と開業の形(自分の屋号か、フランチャイズか)を決める。開業資金と生活費の目標を決める。資格が要る業種なら試験の計画を立てる |
| 退職の半年ほど前 | 本部や金融機関に相談する。許認可の要件(事務所・資格者など)を確かめる。事業計画を作る。退職日の目安を決める |
| 退職の直前 | 退職日を確定して引き継ぐ。事務所の候補を探す |
| 退職のとき | 住民税の残りの納め方を確かめる。給与からの天引きが続けられなくなり、退職した月によって、自分で納める形に切り替わるか、最後の給与などから一括で差し引かれる。たとえば6月1日〜12月31日の退職なら、申し出なければ自分で納める形になる(東京都主税局の案内) |
| 退職後14日以内 | 国民健康保険に入る届出、国民年金の種別の変更の届出(会社の健康保険の任意継続なら、資格を失った日から20日以内に申し出る) |
| 開業のあと | 個人で始める場合は、税務署に開業の届出書を出す(事業を始めた日の属する年分の確定申告期限まで)。会社を作る場合は、設立の日から2か月以内に法人設立届出書を出す |
退職の1年ほど前を目安にしたのは、準備に時間のかかるものがあるからです。たとえばSUMiTASは、資料請求から開業までの標準期間を「6ヶ月〜」としています(一人で独立開業)。契約から開業までは、研修と開業の準備を並行して進める期間です。免許を持っていない場合は、この間に宅建業の免許の申請と保証協会の手続きも進めます。本部によると、すでに宅建業の免許を持つ会社でも、研修の日程の調整と開店の準備があるため、4〜6か月が標準です。開業したい時期から逆算して、契約の時期を決めておきます。宅建士の資格がなければ、試験は年1回で(2026年度は10月18日)、合格発表から宅建士証を受け取るまで、実務経験がない人が東京都に申請する場合で早くても3か月半ほどかかります(宅建合格後の手続き)。
SUMiTASの加盟店の実績では、加盟の相談から開業までの期間は平均9.5か月(2026年9月時点)です。この平均には、相談から加盟の申込みまでの期間も含まれます。
退職後の届出の期限は、法令で決まっています。国民健康保険は資格を取得した日から14日以内(国民健康保険法施行規則3条)、国民年金の種別の変更は14日以内(国民年金法施行規則6条の2第1項)、健康保険の任意継続の申出は資格を失った日から20日以内です(健康保険法37条1項)。開業の届出書は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までに出します(所得税法229条)。
会社員が在職中にできる独立の準備と、できないこと

在職中に事業を始める(事業主になる)場合や、勤務先と競合する仕事をする場合は、まず勤務先の就業規則を確かめます。厚生労働省の「モデル就業規則」(令和7年12月版)は、副業・兼業を届出制で認めたうえで、「競業により、企業の利益を害する場合」など4つの場合は会社が禁止・制限できる例を示していて、その解説は、副業・兼業には「事業主となって行うもの」も含むとしています(モデル就業規則について)。これは雛形なので、実際のルールは勤務先の就業規則で確かめてください。
不動産で独立する場合に、在職中にできることとできないことを分けると、次のようになります。
| 在職中に | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| できる | 宅建士の試験を受け、登録する。登録の要件と欠格事由に、勤務先に関するものはない | 宅建業法18条1項 |
| できる | 資金の準備、本部や金融機関への相談、事業計画 | ― |
| できる | 事務所の要件を確かめ、候補を探す | 各都道府県の手引(事務所の審査要件) |
| できない | 自分が専任の宅建士になって、宅地建物取引業(宅建業)の免許を申請する | 宅建業法4条1項5号・31条の3第1項、国土交通省の解釈・運用の考え方、東京都の手引 |
宅建業の免許の申請書には、事務所ごとに置く専任の宅建士の氏名を書きます(宅建業法4条1項5号)。国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、専任を、原則として事務所に常勤して、専らその事務所の宅建業の業務に従事する状態としています。東京都の手引はこれを「常勤性」と「専従性」の2つと説明し、事務所の勤務時間内に「会社員、公務員のように他の職業に従事している場合」は専任の宅建士に就任できないとしています。自分が専任の宅建士になるなら、免許の申請は、勤務先を退職して事務所に常勤できるようになってからです。開業までの手続きの順番は不動産会社を開業する流れで説明しています。
独立したあとの失業給付と社会保険
失業給付(基本手当)は、開業すると受けられない
雇用保険の基本手当は、「失業の状態」にある人に支給されます。厚生労働省は、失業の状態を、積極的に就職しようとする意思があり、いつでも就職できる能力があり、積極的に仕事を探しているのに職業に就いていないこと、と説明し、受給できない例に「自営業の方など」を挙げています(Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~)。
一方で、2022年7月1日からは、離職したあとに事業を始めた人、事業の準備に専念し始めた人などは、事業の実施期間が30日以上あるなどの要件を満たせば、事業をしている期間を最大3年間、基本手当の受給期間に数えない特例を申請できます。事業をやめて再び仕事を探すときに、基本手当を受けられる期間が残るしくみで、事業をしているあいだに基本手当が出るものではありません。申請は、事業を始めた日などの翌日から2か月以内に、住所か居所を管轄するハローワークにします。
また、基本手当の受給資格がある人が安定した職業に就いた場合には、支給残日数(基本手当を受けられる残りの日数)が所定給付日数(受けられる日数の上限)の3分の1以上あり、1年を超えて勤務することが確実であると認められるなどの要件を満たせば、再就職手当が支給されます。ハローワークの案内は、安定した職業に就いた場合の例に「事業主となって、雇用保険の被保険者を雇用する場合など」を挙げ、「再就職手当のご案内」は、自営を開始した場合も、待期期間(手当が出ない最初の期間)の満了後1か月を過ぎてから対象になるとしています。自営の場合に、事業を1年を超えて続けられると認められるかの基準は案内に書かれていないので、事前にハローワークで確かめてください。なお、同じ事業で再就職手当を受けた場合は、上の受給期間の特例は使えません。
健康保険と年金は、14日以内に切り替える(任意継続は20日以内)
会社の健康保険を抜けたら、国民健康保険に入るか、会社の健康保険を任意継続します。国民健康保険の届出は14日以内、任意継続の申出は資格を失った日から20日以内です。任意継続は、資格を失った日の前日まで継続して2か月以上被保険者だったことが条件です(健康保険法3条4項)。年金は、国民年金の第1号被保険者への種別の変更を14日以内に届け出ます。ここまでの手続きは、個人で始める場合のものです。会社を作って自分が役員報酬を受け取る場合は手続きが変わるので、年金事務所や加入する健康保険の窓口で確かめてください。
独立するタイミングを決める基準
独立するタイミングは、「準備が整ったか」を次の3つで確かめると決めやすくなります(当社の整理)。
- 資金: 開業資金と、売上が入るまでの運転資金と、そのあいだの生活費が用意できたか
- 資格と要件: 開業に要る資格や許認可の要件を、退職のあとすぐに満たせるか
- 相談先と段取り: 開業までの段取りと、開業後に相談できる先が決まっているか
資金の目安は業種で大きく変わります。日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」では、公庫の融資を受けて開業した人の開業費用の中央値は600万円で、自己資金は平均279万円でした(100万円で開業できる?でも紹介しています)。不動産の仲介で独立するなら、私たちの試算では、人を雇わずに1人で運営する場合の運転資金は、役員報酬の月20万円を含めて初年度は月73万円程度です。この20万円は、経営者ご自身の収入として、この試算のために仮に置いた額です。月73万円程度には、SUMiTASに加盟した場合のロイヤリティの月10万円(税別)も含めています。SUMiTASの加盟店では、最初の入金は、私の見るところ開業から2〜4か月後、平均すると3か月後です。そのため私は、加盟をご検討中の方に、開業資金と運転資金を合わせて800万〜1,000万円を目安に用意することをお勧めしています(不動産会社の開業資金)。
不動産フランチャイズで独立する会社員が、在職中に決めておくこと
宅建士の試験と登録、資金の準備、事務所の候補探しは、「会社員が在職中にできる独立の準備と、できないこと」の章の表のとおり、在職中に進められます(宅建士の登録から宅建士証までは宅建合格後の手続き、事務所は事務所の審査要件)。そのうえで、不動産フランチャイズで独立するなら、次の2つを在職中に決めておきます。
- 個人事業主で始めるか、会社を作るか(フランチャイズは個人事業主と法人どちらで加盟する?)
- どの本部に加盟するかを決め、開業までの段取りを本部と確かめる
SUMiTASの加盟店では、加盟の相談をしたときに会社員だった方の店が8店あります(全67店中・2026年9月時点)。「退職から逆算した準備の段取り」の章で書いたとおり、加盟の相談から開業までは平均9.5か月かかります。どの本部に加盟するかは退職の1年ほど前から比べ始め、半年ほど前には本部に相談しておきます。
私は、在職中の方には、退職日を先に決める前に、店舗探し(場合によっては店舗の契約まで)、会社の設立、資金の目標を決めておくことをお勧めしています。ただし、自分が店の専任の宅建士になれるのは、退職して店に常勤できるようになってからです(宅建士を雇って置く場合は別です)。また、退職してから宅建士の勉強を始めた方は、開業までに1年以上かかることが多いので、資格は在職中に取っておくと段取りを組みやすくなります。段取りの表でも、退職日の目安を決めるのは退職の半年ほど前にしています。
SUMiTASのフランチャイズは、従業員を雇わず1名で開業できます(一人で独立開業)。本人が宅建士であれば、退職して事務所に常勤できるようになったあとは、専任の宅建士の条件も一人で満たせます。
独立の準備のよくある質問
会社員が独立を決めたら、まず何から始めるべきですか?
家族と話し合い、業種と開業の形、資金の目標を決めることです。資格が要る業種なら、試験の日程から逆算して計画を立てます。退職の1年ほど前から始めると、段取りを組みやすくなります(当社の目安)。宅建士の資格がない場合は、試験の日程しだいで1年より長くかかります。
独立するための準備には、何が必要ですか?
家族の理解、資金(開業資金・運転資金・生活費)、資格と許認可の要件、事業計画と相談先です(当社の整理)。退職のときに住民税の納め方を確かめ、退職のあとは、健康保険と年金の切り替え(14日以内など)と、個人で始めるなら税務署への開業の届出が要ります。
独立に向いている人には、どんな特徴がありますか?
公庫の融資を受けて開業した人を見ると、現在の事業に関連する仕事の経験がある人は81.1%、管理職の経験がある人は66.4%でした(日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」)。開業した人の動機(三つまでの複数回答)は、「自由に仕事がしたかった」が59.7%で最も多く、「収入を増やしたかった」44.9%、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」41.1%が続きました。経験を生かせる分野かどうかが、判断の手がかりになります。
会社を辞める前に、独立の準備をしてもよいですか?
試験や登録、資金の準備、相談、事務所探しは、在職中に進められます。在職中に事業を始める(事業主になる)場合や、勤務先と競合する仕事をする場合は、勤務先の就業規則を確かめてください。厚生労働省のモデル就業規則は、副業・兼業を届出制とし、競業により企業の利益を害する場合などは禁止・制限できる例を示しています。宅建士の登録に勤務先に関する要件はありませんが、専任の宅建士として宅建業の免許を申請するのは、勤務先を退職して事務所に常勤できるようになってからです。
独立したあと、失業給付は受けられますか?
基本手当は「失業の状態」にある人が対象で、厚生労働省は受給できない例に「自営業の方など」を挙げています。離職後に事業を始めた人は、事業の実施期間が30日以上あるなどの要件を満たせば、事業の期間を受給期間に数えない特例(最大3年)を申請できます(同じ事業で再就職手当を受けると、この特例は使えません)。再就職手当は自営を始めた場合も対象になるとされていますが、事業を1年を超えて続けられると認められるかの基準は案内に書かれていないので、ハローワークで確かめてください。
まとめ: 独立の準備は在職中に、開業は退職の後に
- 公庫の融資を受けて開業した人の7割は会社員から(2015〜2025年度で68.5〜73.6%)。準備は退職の日から逆算して、前と後に分ける
- 退職の1年ほど前から、家族・業種・資金・資格の準備を始める(当社の目安)
- 個人で始める場合、退職後は、国民健康保険と国民年金の届出を14日以内に(任意継続は20日以内)。住民税の残りの納め方は退職のときに確かめる。個人の開業の届出は確定申告期限まで
- 失業給付(基本手当)は、自営業の人は受けられない。事業の期間を受給期間に数えない特例がある
- 独立するタイミングは、資金・資格と要件・相談先と段取りの3つがそろったかで決める(当社の整理)
- 不動産で独立するなら、宅建士の登録・資金・相談・事務所探しは在職中にでき、専任の宅建士としての免許の申請は退職して常勤できるようになってから
不動産フランチャイズという選択肢の全体像は、不動産フランチャイズとはで説明しています。
※この記事の内容は、2026年10月時点の情報にもとづいています。制度や金額は変わることがあるため、最新の情報は各機関・各社の公式サイトなどでご確認ください。


